衆議院本会議傍聴(2017年5月9日)

衆議院本会議を観てきた。去年11月のTPP国会承認の衆院採決以来半年ぶりの傍聴。議題は鈴木淳司法務委員長の解任決議案採決だった。

人の入りはあまり多くなかった。重要法案の採決ではないし、野党の国会戦術の一過程であることを考えれば当然かもしれない。会議自体も特段盛り上がったわけではなく普段通りの印象だった。

開会ギリギリに受付所に飛び込み、チェックを受けたあと議場へ。ギリギリで飛び込んでも入れるのが傍聴人の少なさを表している。というのは本会議の傍聴というのは、重要法案の採決時には開会時間のずっと前に定員に達することもあるからだ。日によっては隠れた人気コンテンツでもあるのだが、その日のように注目されない会議であれば途中入りも可能というわけだ。

議場に入ると私は議員陣の動きを眺める。ここへ来る目的の半分はそれだ。演説会やテレビのスタジオに立たない議員の「生態」を見られる手段はこういうところしかない。そして期待の通りに、たまに変な見物に遭遇することもある。

さて、目を下ろすと佐藤勉議院運営委員長が鈴木俊一環境相の肩を抱くようにしながら入ってきた。佐藤氏は当時谷垣グループの所属。派内では麻生派谷垣グループ合流論の急先鋒であった。一方の鈴木氏は麻生派の所属で麻生副総理の義弟にあたる。佐藤氏の画策が派閥再編に消極的な谷垣グループにさざ波を広げるなかのこの光景。その3日後、佐藤氏は谷垣グループを離脱し、麻生派への合流含みで自派を結成する。

次に目を奥にやると開会寸前で議席へ駆け込む議員が。盛山正仁法務副大臣である。盛山氏の上司にあたるのが今国会の三枚目役者と化した観の金田勝年法務大臣だ。何かと忙しいのだろう。盛山氏の苦闘(?)を感じさせるようなこのダッシュ。

大島理森議長が議場へ入ってきた。このときに起立する議員を尻目に座り続けるのが共産党の議員諸氏だ。もっとも自民党も野党時代は議長に対して起立しなかったし、民進党や維新の行儀がよいだけなのかもしれない。大島議長が開会を告げると「ぎちょ〜〜〜〜〜」と叫ぶのが議事進行係の笹川博義議員。ところでこの「呼び出し」にも巧拙はある。前任の橘慶一郎議員の呼び出しは首を絞められたような大声であまり上手くなかった。「巧」の方は遡って民主党政権時代の鷲尾英一郎議員。なかなかの美声で区切りもよかった。いまの笹川議員も割と上手いと思う。

解任決議案や不信任決議案の類は「趣旨説明」から始まる。このときの役は法務委員会で政府追及の中心だった民進党階猛議員だった。

「おばんでございます」と軽い調子で切り出した階議員はすぐさま今村前復興相の失言に言及。「関係ねえよ!」とヤジが飛ぶ。議席に目を移すと身体をよじり傍聴席を眺める平将明議員に、後方で何かを配る村上誠一郎元行革相。野党議席の方から「席につけ!」とヤジ。

今村問題について話し続ける階議員へのヤジは止まず、自民党若手のヤジ将軍・山田賢司議員が「東北に失礼だろ!」と叫ぶ。本題の解任決議案に入る階議員は「案文」を弁護士らしく「主文」と言った。激しいヤジが飛ぶなかで議場内交渉係が議長席脇に集まり、時折議席を見ながら鳩首協議。終わると長島忠美議運理事が自民党若手の議席に下り、両手を広げながら何かを訴えていた。

階議員、法務委員会の「政府参考人出ずっぱり」に言及する。「細目について訊いていないのに法務大臣が出ないのはおかしい」というところに「だったら通告しろよ!」とヤジ。これは昨秋に問題になった階議員の質問通告遅れを当てこすったものだろう。隙があるとこのようにすぐヤジの材料にされてしまう。そして階議員は土屋正忠議員との一件について言及した。途端に「暴行罪!」などと激しいヤジ。野党議席からも激しくヤジる議員がいた(なんとなく誰かはわかったが、自信がないので伏せる)そんな傍ら与党議席端で居眠りするのが武藤貴也議員。強心臓である。

与党への非難を続ける階議員は、「オウム事件に端を発したようなこの法案だが、(質問の鸚鵡返しを繰り返す)大臣ももう一つのオウム事件を起こしている」と爆笑問題の出来損ないのような皮肉を一閃する。即座に轟々たるヤジが起き、大島議長も静粛を求めるが効かずに混乱。議場内交渉係が演壇に上がった。与党議席中央を見ると宮川典子議員が往年のハマコーばりに机を叩いて猛然とヤジを飛ばしていた。録画映像中ずっと聞こえる女性のヤジは大体宮川議員のものだ。「オウムの被害者に謝れ!」とヤジは止まず、階議員も与党議席を気にしている様子だった。

与党議席端を見たら村上誠一郎元行革相が若手の小林鷹之議員に近づき何かを伝えていた。小林議員は財務官僚出身。これは数日後に報道された、村上氏が事務局長、野田毅元自治相が会長の財政再建勉強会の連絡だったのかもしれない。一方、野党側議席端を見ると小沢一郎氏がいつのまにか着席していた。小沢氏は遅刻するのが平常で、いつのまにか議場に入り、いつのまにか去っている。おそらくは国会が嫌いなのだろう。

階議員のほうに目を戻すと混乱は収まらず、与党議席からは「もういいよ!終われ!」と悲壮なヤジが聞こえる。このとき既に1時間近く経っていた。検事出身の山下貴司議員は「TOC条約は…」と専門的で内容に触れたヤジを飛ばす。あまりヤジを飛ばすイメージがなかったのでこれは意外に思った。

階議員の演説、「(自民党の)今は引退されていますが…」でどうせ山崎拓とかお決まりのメンツの嘘くさい言葉を引くのだろうと思ったら、「早川先生はじめ…」でまさかの早川忠孝氏登場。これには笑ってしまった。そして「公明党の皆さん!」と公明党に呼びかけたところに「この法案は宗教団体を含めて…」と攻めたアピール。公明党への嫌味にしか聞こえなかった。そうして階議員の趣旨説明は約1時間で終了。

反対討論をしたのが法務委員会の自民党理事である宮崎政久議員だった。冒頭で直前の「もう一つのオウム事件」発言を批判したあと、本題に。議場入り口を見ると森英介憲法審査会会長が入ったり来たりしている。内容自体はこれというものはなし。演説は安定感があった。

賛成討論をしたのが民進党理事の井出庸生議員。真面目な雰囲気だが、前ふたりに比べると演説の技術は劣る印象。

ふと民進党議席前方を見ると松田直久議員がスマホをいじっていた。これには感心しない。議場内のスマホ使用は一部閣僚の緊急時の使用以外は禁じられている。ただ与野党問わず使う議員というのは絶えず、傍聴すると毎回2,3人は使っているところを目にさせられる。

共産党から賛成討論に立ったのは藤野保史議員だった。藤野議員も法務委員会で政府追及の急先鋒だった。「広範な個人や団体から反対の声が寄せられる」といういかにもな共産党調の演説に徹し、少々憑かれたような印象。自民党議席を見ると、採決に滑り込むように小渕優子経産相が議場入りしていた。演壇の藤野議員はというと、金田法相のモノマネに聞こえなくもない答弁の再現をしていて、ここだけはちょっとよかった。

そして討論が一巡し、採決に。内閣不信任案などは大体が「堂々巡り」と呼ばれる記名投票で行われるが、この日は起立採決ですぐ片付ける格好。反対多数で否決。

 首班指名選挙で総理に指名された議員が起立をし、拍手の中議場の四方にお辞儀する光景を見たことがある方は多いだろう。面白いのはこうした委員長解任決議案でも、否決された委員長が首班指名よろしく起立して周りにお辞儀をするのだ。このときにも与党議員の拍手のなか鈴木委員長が起立。政府の姿勢や野党の対応などが話題に上った本会議の中で、唯一「主役」の顔が見えた瞬間であった。