追想「宮崎哲弥に訊け!」

TBSラジオに「BATTLE TALK RADIO アクセス」という番組があったことは、関わった当人たちですら忘れているかもしれない。1998年に始まり、2010年に終了した。リスナーが電話でパーソナリティに意見を開陳するという微温的な番組だったが、1年に一遍、きまってアシスタント役の渡辺真理が視聴者に嫌味を言われるスリリングなシーンもないことはなかった。  

 

そのパーソナリティのひとりに名を連ねていたのが宮崎哲弥だ。出番は火曜日と水曜日を行ったり来たり。開始から一貫して出演しつづけ、朝生には「ラジオパーソナリティ」という冠で出たことすらあったというが、終了を待たずに09年12月をもって降板した。このころの宮崎は「スッキリ!」などいくつかの番組を降板しており、アクセスもそのなかのひとつになった格好だった。私がいちばん熱心に聴いていたのは(というかこれしか聴かなかったというのが)宮崎の回だった。このころの宮崎といったら、週ごとに「もう解散総選挙しかない!」とアジり、いまでは私事で記者の職を追われた武田一顕や、ご案内の通りの上杉隆と「政局観察三人委員会」の名で甲高い笑い声を響かせていた。隔世の感がある。  

 

この番組は放送が終わる間際の23時40分過ぎになると「アクセス特集」というパーソナリティのフリートークコーナーを流した。田中康夫えのきどいちろう二木啓孝といった面々がアシスタントの渡辺や麻木久仁子に好きな話をするだけ。例外が木曜パーソナリティだった井上トシユキで、彼だけは提供元のNECが仕切るコーナーでよくわからない相手とよくわからない話をしていた。他のパーソナリティよりも立場が弱いのかしら、とつまらぬ勘ぐりをしたものだが、以来私は井上が好きである。  

 

そのアクセス特集で、宮崎だけは毛色の違う「宮崎哲弥に訊け!」というコーナーをやっていた。内容は宮崎が自分で選んだ曲を流すというもので、論壇オタクに足を踏み入れかけていた私にとって魅力的な企画だった。最初に聴いたのはマット・ビアンコの「HIFI BOSSANOVA」だった記憶があるが、違う気もする。2、30秒ほど曲を選んだ所以を語り「(アーティスト名)で(曲名)です」ではなく「(アーティスト名)、(曲名)」というぶっきらぼうな紹介をするのがお決まりだった。  

 

このあいだ、ふと思い立ってこのコーナーの名前でネット検索すると、ひとつとして記事がないことに愕然とした。なんとか記憶があるうちに書き残しておかねばならない、と思った。  

 

さて、記事はひとつとしてないと書いたが、肝心の音源にはひとつだけ触れることができる。宮崎の最後の出演となった09年12月23日の回(https://youtu.be/zkCvztjSX34 )だ。この回で宮崎が流したのはミズノマリ「東京の街に雪が降る日、ふたりの恋は終わった。」。ここで宮崎は、98年10月6日の最初の出演で紹介したのは、トッド・ラングレン「Believe In Me」だったと語っている。  

 

私にとって印象深い選曲は、09年の夏前だったか、「政治は混迷を深めていますが、さわやかな曲を」という旨のことを言ってかけた、いきものがかり「ブルーバード」だ。キリンジの楽曲から『エイリアンズ』という書名をつける宮崎の姿といまひとつ重ならない選曲で、意外さが面白かった。  

 

覚えている限りでは、以下の曲を流していた。 

Akeboshi「Wind」 

Nona Reeves 「1989」  

benzo「落下ドライブ」 

paris match「CDG」 

paris match「空っぽの君と僕」 

斉藤和義「幸福な朝食 退屈な夕食」 

長谷川きよし「黒の舟唄」 

エルビス・コステロ「She」 

井上堯之「青春の蹉跌のテーマ」  

 

「最近昔の曲の番組にハマっている」と言ってかけたのは高田みづえ「私はピアノ」、忌野清志郎の死去を悼んで流したのはRCサクセション「SUMMER TOUR」だった。親しい友人が亡くなったといって選んだ曲があったが、それがまったく思い出せず残念である。  

 

livedoorしたらば掲示板に「てっちゃんねる〜宮崎哲弥〜」という、宮崎を軸に論壇の話題を扱う掲示板があった。いつごろなくなったのか記憶がはっきりしないが、11年ごろにはもうなかったと思う。私も浅羽通明のスレを立てて無視されるなどの愚かな行為をしていたが、ここで知ったところによれば、宮崎はアシスタント役の山本モナの降板にあたってはCORE OF SOUL「In Your Arms」をかけ、山本のスキャンダル発覚が起きるやBaby boo「一歩ずつの勇気」を流したそうだ。粋な心遣いである。Maroon5Sunday Morning」という選曲も紹介されていた。  

 

宮崎のキリンジフィッシュマンズ、ザ・バックホーン、小沢健二らへの嗜好は活字などの形で知られるところだが、「宮崎哲弥に訊け!」に関しては風化が進む一方だ。ぜひネットの集合知で、他の選曲を知る方があれば教えていただきたい。